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”ビジョン・プロセシング”マガジン
『未来からの問い』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024.5.5 Vol.145
1.成人発達理論の光と影
「『 人の器』を測るとはどういうことか」の出版から2か月が経ちました。
大変ありがたいことに発売後3週間で重版も決定するなど、おかげさまで本書の反響は大きく「 人の器」への関心が様々なところで見受けられるのがひしひしと伝わってきます。 一方で、「人の器を測る」ということに対して心理的抵抗感を示されている方も多いようです。私はこれは、とても自然な反応ではないかと思っています。
私自身、成人発達理論について約7年間独学で学んでおり、学べば学ぶほど、この領域の深さと広さを感じています。私は学術研究者ではなく、単なる在野の独学者ですが、学術書の監訳をさせていただくのは光栄であり、同時に大きな責任を感じています。特に学び始めた当初は成人発達理論の可能性に非常に魅了され、その学習と実践に力を注ぎました。しかし、学ぶほどに、どの学術領域にも万能薬は存在しないこと、そして自分自身の理解や判断の限界を痛感しています。それでもなお、成人発達理論の可能性に賭け、その影の部分を含みながら、その光が次なる輝きにつながることを願って取り組んでいます。
成人発達理論との出会いは2005年に遡ります。この年、私は経営者向けパーソナルコーチとしてのキャリアをスタートさせたばかりで、オットー・シャーマー博士の書籍を翻訳していた際に初めて成人発達理論に触れました。そして、時間が経つにつれて、ロバート・キーガン教授の「なぜ人と組織は変われないのか」の出版を契機に、成人発達理論の存在を本格的に知ることになりました。
当時の私は、U理論の実践はそれぞれの内省力次第なのだということを痛感する状況に何度も遭遇しながら、U理論を深く実践できる人とそうでない人に差があることを感じ、その差が何なのかを明らかにしようとしていました。 特に苦慮していた点は、参加者の特性の違いによってファシリテーターの関わり方を変える必要があることをどうお伝えすればよいのかということです。
現場を生で共有しているのならその違いを感覚的に共有することができます。 しかし、実際にはその機会はないので、参加者の特徴の違いが場に与える影響をわかりやすくお伝えするのは非常に難しいと感じていました。 成人発達理論はそんな私の疑問に対して、「その人の意味構築は発達段階に依存する」「発達段階によって現実認識は全く異なって見える」という観点を提示してくれました。
例えば、生まれたばかりの赤ちゃんがハイハイや鉄棒ができないことや、小学生が微分積分の計算ができないことがおかしいと思う人はおらず、「その子は今そういう発達途上にあるだけだ」とすんなり納得できるのではないでしょうか。
それに対し、成人発達はこういった幼児の発達のように目に見えてわかりやすいものではありません。だからこそ、何歳になってもその人なりの発達の歩みがあり、誰もがその段階を辿る可能性が高いと理解することは、「相手の怠惰、能力の無さ」なのではなく、「自然な違い」なのだと受け入れることに繋がります。
私はこの点が、自己受容と他者尊重を促進させる成人発達理論の光の部分ではないかと思っています。すなわち、互いの自然な違いを理解する一つの共通のレンズになり得るということです。成人発達理論の活用によって、勘と経験頼みではなく何かしらの原理原則に則った対人支援が可能になるものと考えています。
一方で、成人発達理論の影の側面も理解しておく必要があります。多くの研究者が倫理的な観点から警告していることでもありますが、それは発達段階という考え方がしばしば優劣意識と結びつき、「違い」に対する差別意識が無意識のうちに生じる危険性があるということです。
成人発達理論を組織に制度導入する際に、不本意ながら人をランク付けするような使われ方になってしまうということも同様にあり得ます。 自分と相手の間の違いを理解することが、自己受容と他者尊重に繋がるとは述べた通りです。 しかし、成人発達理論における「違い」はMBTIなどのタイプ論のように水平的ではないことに難しさがあります。例えば、自分より前期の発達段階にいる人のことが未熟な存在に見えてしまい、イライラや否定的な感情を引き起こされるということがしばしば起こってしまうのです。
成人発達という考え方は、人間には発達現象があるという事を踏まえて関わり合い、尊重しあうという観点で活用することが必要です。 逆にその観点を持てなければ、相互理解どころか逆効果になってしまうということを、私たちは常に肝に銘じておく必要があるでしょう。
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【未来からの問い Vol.145】
あなたが大切にしたい「違い」はなんですか?
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■「『人の器』を測るとはどういうことか」刊行記念イベントを
5月30日[木]19:00〜21:00に代官山蔦屋書店にて開催いたします。
タイトルは 「成人発達からはじまる自分自身を探る旅」。
監訳者である中土井が、書籍をさらに深く掘り下げていきます。
・成人発達理論の意義や魅力は何か?
・「人の器」について考えることで、自分自身のどんな新たな発見が可能になるのか?
・他者を「裁く」のではなく「触れる」ための測定とは?
・監訳者として読者に伝えたいこと
参加お申込みはこちら
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/40317-1559070504.html
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2.セミナー・ワークショップ情報
■【法人向け U理論連続セミナー】
環境や課題が複雑になっていく状況下でも、迷わず意思決定をすることは可能なのでしょうか? 「U理論」とは、過去の延長線上ではない意識変容・行動変容やイノベーションを、個人やチーム、組織、そして社会で起こすための原理と実践を示した理論です。本連続セミナーでは、「U理論は仕事・生活に具体的にどのように役立てられるのか?」という視点をお届けします。
━第5回:U理論と成人発達理論
日 程:2024年5月14日[火] 16:30〜18:00
会 場:ZOOMにてオンライン開催
参加費:無料
<詳細・お申し込み>
http://ptix.at/gVwAl5
━第6回:U理論から見た人材開発
日 程:2024年6月20日[火] 16:30〜18:00
会 場:ZOOMにてオンライン開催
参加費:無料
<詳細・お申し込み>
http://ptix.at/C1jGoa
■【出版記念対談】「メタ認知」の次に来るものは何か?〜IFS(内的家族システム)が映し出す新しい可能性〜
家族療法士 リチャード・C・シュワルツの著書「No Bad Parts」の日本語訳である『「悪い私」はいない:内的家族システムモデル(IFS)による全体性の回復』が今年3月20日に出版されました。本書の翻訳に携り、またIFSセラピストとして活躍されている後藤 ゆうこ氏・佐久間 智子氏・後藤 剛氏をお迎えした対談イベントを実施いたします。
日程 :2024年5月17日[金] 19:30〜21:30
会場 :ZOOMにてオンライン開催
参加費:550円(税込)
<詳細・お申し込み>
http://ptix.at/aaRHsX
■リーダーシップ・シフトプログラム エントリーコース
U理論に基づき、私たちが無自覚のうちに陥っている意思決定のパターンに目を向け、仕事やプライベートに活かせる問題解決法をご紹介します。
会 場:ZOOMにてオンライン開催
参加費:3,300円(税込)
日 程:2024年5月8日[水] 19:00〜21:30
http://ptix.at/4PcBdL
日 程:2024年5月29日[水] 19:00〜21:30
http://ptix.at/va850N
■リーダーシップ・シフトプログラム ベーシックコース
自分自身と周囲の「自分らしさ」を解放することで、その人の強みが十分に発揮される状態を創り、一人一人と場の進化をもたらし続ける全く新しいテクノロジーをご提供いたします。
━42期日程:2024年6月22日[土]〜6月23日[日]
1日目9:50〜19:30
2日目9:00〜19:00
会 場:KFC Hall&Rooms(両国)
参加費:(通常価格)132,500円(税込)
(2024/5/22まで早割価格)102,500円(税込)
<詳細・お申し込み>
http://ptix.at/3B63Cy
■自己組織化チーミング手法「SOUNDメソッド」SOUNDコーチ養成講座 初級編
「SOUNDカード」を活用した対話の場づくりを体験し、変化が激しく先行き不透明な状況下でもチームメンバーが目的や意義を共有・合意し、チームとして共進化(Co-Evolve)していくことを可能にしていきます。
━15期日程 :2024年7月6日[土]
10:00〜18:30
会 場:KFC Hall&Rooms(両国)
参加費:55,000円(税込)
<詳細・お申し込み>
http://ptix.at/GSuMV5
━━━━━━━━━━<発行者情報>━━━━━━━━━━━
”ビジョン・プロセシング”マガジン
『未来からの問い』
●発行責任者:山根 恭子
●発行元:オーセンティックワークス株式会社
●事業内容:組織進化コンサルティング
オーセンティックワークスは、社会変容テクノロジー「U理論」
を活用したプロセスコンサルテーションによって「ソーシャル
フィールド(社会的な場)」を転換し、他責・対立・迷走等、閉塞
感のある組織を創発的な組織へと進化させます。
●URL:
http://www.authentic-a.com/
●お問い合わせ:
aw-office@authentic-a.com
●バックナンバー:
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●アドレス変更・配信停止:
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